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バヌアツの法則はデマなのか?

2022.6.23

バヌアツの法則はデマなのか

今年の3~4月に日本列島各地で震度 4を超える地震が相次いだことから、SNSなどで「バヌアツの法則」という言葉が話題になりました。今回、このバヌアツの法則が本当に存在するのかを検証しましたので、その結果を掲載します。

バヌアツの法則とは?

バヌアツ(バヌアツ共和国)は南太平洋に位置する、800km にわたって連なる 83 の島からなる島国です。バヌアツの法則とは、このバヌアツでマグニチュード(M)6 以上の地震が起こると、日本でも 2 週間以内に同等以上の地震が発生するという法則です。最近にネット上で話題となりましたが、この言葉自体は以前から存在するワードのようです。(参考記事)

日本はオホーツクプレートやアムールプレート、沖縄プレート上に位置するのに対し、バヌアツはニューヘブリデスプレート上に位置しています。また日本とバヌアツは7000km離れており、地理的には日本の地震とバヌアツの地震が連鎖する可能性は極めて低いように見えます。

プレート

バヌアツの法則として列挙される事例には主に下表のようなものがあります。

また、東日本大震災の前にも18日前にバヌアツより約2000km南方のニュージーランドで地震が発生しており、この事例もバヌアツの法則に含めて議論されることもあるようですが、その他の事例とは位置が離れていることから、今回の検証では除外しました。

上記5つのバヌアツ周辺で発生した地震をプロットすると下図のようになります。

バヌアツの法則に挙げられるバヌアツ地震の震央地図

このように、確かに日本で発生したいくつかの大地震前にはバヌアツ周辺でも同規模クラスの地震が発生していることがわかります。しかし、バヌアツ周辺は巨大地震が頻発する場所であり、上記以外にも数多くの地震が発生しています。また日本も同様に上記事例以外にも数多くの大地震が発生しています。とはいっても日本やバヌアツではこのような大地震は1年間に多くても数回しか発生しません。
このような比較的珍しい現象同士が同時期に起こった場合、実際にそこに相関関係がなくとも相関があるように思いこんでしまう「錯誤相関」という心理的な現象が起きやすく、ネットで騒がれているような法則が本当に存在するかを知るためには、「バヌアツの地震なしに日本で起きた地震」や「バヌアツの地震が起きても日本で地震が発生しなかった事例」にも着目して検証する必要があります。本調査では、バヌアツで地震が発生した後には日本で地震が発生しやすくなっているといえるのかについて統計学的に検証しました。

調査1 バヌアツ地震と日本地震との統計的関連性の検証

1.検証方法

1-1.対象とするバヌアツ地震

上記バヌアツの法則の事例を見ると、いずれもニューヘブリデスプレートとオーストラリアプレートの境界付近で発生したM6.5以上の地震であることがわかります。またいずれも深さ30km以内で発生していることもわかります。このことから対象地震は、北緯-13~-24度、東経165.6~172.7度、深さ40km以浅の範囲内で発生したM6.5以上の地震としました。なお、基準を満たした地震から前震や余震は解析対象から除外しました。

1-2.対象とする日本地震

バヌアツの法則の事例では、いずれもM6.5以上の地震であることはバヌアツ地震と同様ですが、対象となる場所は北海道から九州と日本全国にわたり、またプレート型地震や内陸地震、スラブ内地震が混在しています。このことから対象地震は、北緯23~47度、東経120~152度の範囲内で発生したM6.5以上の地震としました。ただし、今回は八丈島~父島近海の地震は対象から除外しました。なお、バヌアツ地震と同様に前震や余震は解析対象から除外しました。

1-3.統計解析

地震予知研究などで頻繁に使用される指標である「確率利得」を用いて評価しました。具体的には、バヌアツ地震の2週間以内に日本地震が発生した割合を算出し、日本地震の自然発生確率に比べてどの程度この割合が高いのかを調査しました。確率利得の具体的な算出方法については次の図をご覧ください。

また、日本地震の有無とバヌアツ地震の有無という2変数間に統計学的に有意な関連性があるかを調べるために、フィッシャー正確確率検定も行いました。有意な関連性があるという判断基準には危険率(P値)を用い、この値が5%未満の場合有意な関連性があると判断しました。

バヌアツの法則の事例は東日本大震災以降であり、気象庁で地震情報が電子データ化されている1923年以降から東日本大震災前までのデータと、2012年以降のデータを切り分けて調査しました。

2.結果

2-1. 2012年以降の地震データ

対象期間中に、バヌアツでは14回、日本では36回の基準を満たした対象地震が発生していました。
14回のバヌアツ地震のうち、2週間以内に日本で対象地震が発生したのは5(6)回でした。

バヌアツ地震の震央地図
日本地震の震央地図

下表は、バヌアツ地震とその後に発生した日本地震の対応表であり、左側がバヌアツ地震、右側が日本地震の詳細を示しています。バヌアツ地震の後に日本地震が発生しなかった場合は空白行となっています。

これらのデータを元に統計解析を行った結果が次に示す表となります。日本地震の自然発生確率は1%であるのに対し、バヌアツ地震後に日本地震が発生する確率(適中率)は2.4%*であり、確率利得が2.5であることからバヌアツ地震の後には、日本地震が発生する確率が通常の2.5倍に高まっていると解釈できます。また、フィッシャーの正確確率検定P値は4.4%となっており、バヌアツ地震と日本地震には有意な関連性がある(関連性がない確率は4.4%と非常に低い)ことがわかりました。

※バヌアツ地震後に日本地震が発生した回数/バヌアツ地震回数= 5/14 x 100=35.7%であり、値が誤っているように見えますが、これは適中率の計算にはバヌアツ地震発生後から2週間の「警戒期間」を使用していることによるものです。

2-2. 1923年~2011年の地震データ

対象期間中に、バヌアツでは92回、日本では386回の基準を満たした対象地震が発生していました。

バヌアツ地震の震央地図
日本地震の震央地図

92回のバヌアツ地震のうち、2週間以内に日本で対象地震が発生したのは14回でした。バヌアツ地震とその後に発生した日本地震の対応表に関しては、事例数が多いため割愛しました。
これらのデータを元に統計解析を行った結果を表にしています。日本地震の自然発生確率は1%であるのに対し、バヌアツ地震後に日本地震が発生する確率(適中率)は1%であり、確率利得が1であることから、バヌアツ地震の後に日本地震が発生する確率は通常の1倍とほぼ通常と変化がないことがわかりました。また、フィッシャーの正確確率検定P値は99%以上となっており、バヌアツ地震と日本地震に有意な関連性はみられませんでした。

3.小括

2012年以降のデータを用いた場合はバヌアツ地震の後に日本地震が発生しやすくなっているという結果となりました。しかし1923~2011年のより長期間のデータを用いた解析では、バヌアツ地震と日本地震に有意な関連性はみられず、バヌアツ地震発生後の日本地震発生確率は高まっていないという結果となりました。
今回の調査では、簡易的な検証しか行っておらず、バヌアツ地震と日本地震の因果関係や有意な関連性がみられたメカニズムを推察することはできません。しかしバヌアツと日本に共通する地理的特徴としては、どちらも太平洋プレートに隣接するプレート上に位置しているということです。太平洋プレートの活動が数千km離れた地域に同じような影響を同時期に与えているのかもしれません。この仮説を検証するため、調査2~3を行いました。

調査2 最適な対象地震と警戒期間の選定

調査1で考察したように、バヌアツ地震と日本地震が太平洋プレート活動による影響で関連性がみられているのであれば、バヌアツ地震と日本地震に因果関係がないことから順序的な関係はないと考えられます。この仮説を検証するため、バヌアツ地震前にも日本地震が発生しやすくなっているかを調査しました。対象期間については、有意な関連性がみられた2012年以降としました。
また、バヌアツの法則の事例から前提的に選定した警戒期間の長さや対象地震のマグニチュードについても、最適な基準を選定するために、警戒期間やマグニチュードの基準をシフトさせながらそれぞれの確率利得の変化を調査しました。
グラフは、警戒期間を14日ごとにシフトさせた場合の確率利得とフィッシャーの正確確率検定P値を示しています。負の値を示す警戒期間では、バヌアツ地震発生前の日本地震の発生のしやすさに関する結果となります。初めに選定した2週間以内(0~14日)の部分が最も確率利得が高く、有意な関連性がみられていることがわかりますが、その他の警戒期間では有意な関連性はみられませんでした。

次に、対象とするマグニチュード(M)をシフトさせた場合の結果です。一つ目のグラフが日本地震の対象Mをシフトさせた結果、二つ目のグラフがバヌアツ地震の対象Mをシフトさせた結果を示しています。日本地震の場合は対象Mを上げるごとに確率利得が高くなり、M6.5以上から有意な関連性がみられるようになりました。一方バヌアツ地震ではM6.5以上の地震が最も確率利得が高く、有意な関連性もこの基準でのみみられました。

調査3 バヌアツ地震と日本以外の地震との関連性

調査1で考察したように、バヌアツ地震と日本地震が太平洋プレート活動による影響で関連性がみられているのであれば、その他の太平洋プレート周辺の地震でも同様な関連性がみられる可能性があります。この仮説を検証するため、バヌアツ地震の後に太平洋プレート周辺の地震が発生しやすくなっているかを検証しました。対象期間については、有意な関連性がみられた2012年以降としました。
結果は下表のとおりです。14回のバヌアツ地震のうち、2週間以内に対象地震が発生したのは10回でした。太平洋地震の自然発生確率は8%であるのに対し、バヌアツ地震後に太平洋地震が発生する確率(適中率)は9%であり、バヌアツ地震の後に太平洋地震が発生する確率は通常の1.2倍とほぼ通常と変化がないことがわかりました。また、フィッシャーの正確確率検定P値は41%以上となっており、バヌアツ地震と太平洋地震に有意な関連性はみられませんでした。

また、次のマップはバヌアツ地震後に発生した地震とそれ以外の地震を色分けした結果となります。やはり日本周辺で赤丸が密集しているように見えます。またバヌアツ周辺(パプアニューギニアからニュージーランド)でも赤丸が密集しているように見えますが、このエリアを対象として解析を行った結果、有意な関連性はみられませんでした。

まとめ

2012年以降のデータを用いた場合にのみバヌアツ地震の後に日本地震が発生しやすくなっているという結果が得られました。また、対象地震の規模や警戒期間をシフトさせて最適なモデルを調査しましたが、やはりM6.5以上のバヌアツ地震が発生した場合、2週間以内にM6.5以上の日本での地震が発生しやすいという結果となりました。
さらに、バヌアツ地震と日本地震が太平洋プレート活動による影響で連動している可能性について検証するため、バヌアツ地震前にも日本地震が発生しやすくなっているか、また太平洋プレート周辺全体の地震でも同様な関連性がみられるのかを調査しましたが、バヌアツ地震前には日本地震が発生しやすくなっておらず、またその他の太平洋プレート周辺の地震が発生しやすくなっているという結果も得られませんでした。

今回の解析により、確かにここ10年程のデータを見る限り、バヌアツ地震後に日本で地震が発生しやすくなる「バヌアツの法則」を肯定する結果が得られました。しかしそのような関連性がみられるのは時期的に限定的であり、さらに太平洋プレート全体との関連性もみられず、メカニズムも明らかにできませんでした。

東北地方太平洋沖地震は世界的に見ても観測史上4番目に大きな地震であり、このような地震により何かしらに大きな変化が生じた結果このような関連性がみられるようになった可能性は否定できませんが、2012年以降に発生した地震数は限られていることから時間的推移を詳細に調べることはできず、今後もこのような法則が存在し続けるかについてはさらに掘り下げた調査が必要だと考えられます。2004年に発生したスマトラ沖地震などは東北地方太平洋沖地震よりも規模が大きく、このような地震の前後でも同様な変化が現れているかなどについて、今後も調査を継続したいと思います。

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