論文紹介

東北地方太平洋沖地震の前に現れていた地下水の異常に関する論文

2011年 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の前に現れていた、地下水の異常に関する論文についてご紹介します。
東北地方太平洋沖地震の発生約3カ月前から、温泉の源泉(地下水)の水位が10m以上、水温が1℃~2℃低下していたことが、東海大学海洋研究所と東京学芸大学研究グループによって報告されています。
この論文は2014年7月のScientific Reports誌に掲載されています。

研究グループは既存の温泉に着目し、東北地方太平洋沖地震の震央地に近い三陸地域にある5か所の温泉や鉱泉で記録されていた地下水の水位や水温の数値データを入手して地震発生前における異常の有無を調査しました。
その結果、震央地から約150km離れた岩手県大船渡市にある五葉温泉の源泉(地下水)の水位が10m以上、水温が1℃~2℃低下していたことが明らかとなりました。 この五葉温泉では2007年10月以降のデータが存在していましたが、東北地方太平洋沖地震の前以外に水位が異常に減少したのは2008年9月、水温が低下したのは2008年2月から3月にかけての1度のみでした。またこれらの異常がみられた期間には、「2008年6月14日 岩手県内陸南部 M7.2・最大震度6強」の地震が発生しています。
つまり、データが記録されていた3年半のうち、同時に水位の低下と水温の低下が観測されたのは東北地方太平洋沖地震の前だけということになります。
この五葉温泉の源泉は深さ2kmであり、地下深くに存在する被圧帯水層という領域まで達していました。
水位が低下したメカニズムに関して、研究グループはこの論文内で、東北地方太平洋沖地震前にはプレート境界面でスロースリップが発生しており、これによって三陸地方陸域で体積が膨張した可能性を言及しています。(※右図参照)
一方、この体積膨張に伴い新しい水脈が形成され、五葉温泉に繋がっている被圧帯水層に別の水層中の地下水が流入した結果、水温に変化が生じたのではないかと推察しています。

五葉温泉の位置
スロースリップによって陸域で体積が膨張し、水位が下がった可能性

出典:http://www.nature.com/srep/2014/141104/srep06907/full/srep06907.html

SCIENTIFIC REPORTS, 4 : 6907, DOI: 10.1038/srep0690, 1-6, 2014.

東北地方太平洋沖地震の前に現れていた大気中のラドン濃度異常に関する論文

2011年 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の前に現れていた、大気中のラドン濃度異常に関する論文についてご紹介します。

ラドン(222Rn)とは、土壌や岩石、水中に存在し、無味無臭、無色の気体として大気中に放出される半減期3.8日の放射性物質です。地震発生前に現れるラドンの異常放出に関する報告は数多く存在し、1995年 阪神淡路大震災の前にも異常が現れていたことが報告されています(Yasuoka, Y et al., 2006. Applied Geochemistry, 21(6), 1064-1072)。
この大気中ラドン濃度が、東北地方太平洋沖地震の約3年前である2008年から上昇していたことが、神戸薬科大学などの研究グループによって報告されています。
研究グループは、福島県立医科大学で2003年以降に毎時測定されていた大気中のラドン濃度のデータを元に解析を行いました。ラドン濃度は地形による影響を受け、また夏季に低く冬季に高いという季節変動も存在します。そのため研究グループは、地形の影響を受けない1日の最低濃度を使用して、この値の季節変動に関する数理モデルを作成することで、通常の大気中ラドン濃度(予測値)と東北地方太平洋沖地震前の濃度(実測値)の比較を行いました。

その結果、2008年から2011年にかけてラドン濃度は予測値を大きく上回っており、通常のラドン濃度の変化は約±1 Bq/m3であるのに対し、4 Bq/m3程度上昇していたことが明らかとなりました。一方で、福島県周辺では2008年から地殻にかかる応力に変化が現れていたことが報告されており(Ozawa, S et al., 2012. J. Geophys. Res. 117, B07404)、研究グループはこのラドン濃度の上昇は地殻の応力変化に関連しているのではないかと述べています。

福島県立医科大学の位置
地殻の応力変化によるラドン濃度上昇の可能性
ウランからラドンへの壊変
ウラン壊変系列

出典:http://dx.doi.org/10.1016/j.jenvrad.2014.10.007

Journal of Environmental Radioactivity, 139, 149-153, 2015.

東北地方太平洋沖地震の前に現れていた電離圏の異常に関する論文

2011年 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の前に現れていた、電離圏の異常に関する論文についてご紹介します。

電離圏とは、地表から高さ約60キロメートル 以上の大気圏上層部のことで、大気の分子、原子が電離して生じた電子とイオンが多量に存在する領域です。
この電離圏中に含まれる電子数は、全国に設置されているGPSの観測点から得られるデータを用いて測ることができます。

このGPSの高感度観測網に於いて電離圏全電子量が地震発生の約40分前から異常な値を示したことが、北海道大学 大学院理学研究院の日置幸介教授によって報告されています。この論文は、2011年9月15日発行のGeophysical Research Lettersに掲載されています。
この論文によると、GPS観測点で観測された電子量が、地震発生の40~60分前あたりから顕著な増加がみられ、その異常は震源に近い東北の観測点で大きく、震源域から離れるに従い小さくなっていることが分かりました。
この現象は2010年チリ地震(Mw8.8)、2004年スマトラ・アンダマン地震(Mw9.2)、1994年北海道東方沖地震(Mw8.3)でも同様の異常がみられ、概ねM8以上の大地震でこの前兆現象が現れる可能性が示されています。

地震直前になぜ上空で電子量が増加するかの理由は明らかにはなっていないそうですが、地表近くに正電荷が溜まることで説明できる可能性があるとしています。正電荷が発生するメカニズムとしては、圧縮された火成岩から正孔(半導体の価電子の一部が欠落して穴のようになっている箇所)が拡散する現象が室内実験で確認されており、地震発生前に地下で岩石が圧縮された結果、発生している可能性が指摘されているものの、実際の地震前にそれを直接観測した例はないとのことです。
またもう一つの考えられるメカニズムとして、地殻から放出されたラドンガスが大気を電離させることによって大気の電気抵抗率が変化し、グローバル・サーキット(地球規模の電気回路)が乱れた結果電離圏の電子量が増えたのではないかと述べています。

正孔とは
地殻の応力変化による正電荷発生からの電子量異常の可能性
ラドンガスによる電離の可能性

出典:https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1029/2011GL047908

Geophysical Research Letters, DOI: 10.1029/2011GL047908


* Mw; モーメント・マグニチュード

新潟県中越地震の前に現れていた、電磁波の異常に関する論文

2004年 新潟県中越地震の前に現れていた、電磁波の異常に関する論文についてご紹介します。

この地震は、新潟県北魚沼郡川口町の深さ約10kmを震源として2004年10月23日に発生したM6.8(最大震度7)の地震です。

この新潟県中越地震の発生約数週間前から、周辺で様々な電磁気学的異常が現れていたことが電気通信大学と中部大学、高知大学の研究グループによって報告されています。

地震発生前に現れる電磁気学的異常に関する報告は数多く、DC、ULF~HF帯(0~30MHz)まで幅広い周波数帯で観測されています。研究グループは3つの手法を用いてこの地震発生前に電磁波異常が現れていたかどうかを調査しました。

研究グループはまず初めに、地下からのULF波(10Hz以下)放射異常があったかどうかを調べるため、中津川にある観測所のデータを用いました。この観測所では、コイルによって3軸の磁界成分が6時間ごとに測定、記録されており、FFT解析により各周波数帯の磁界強度を調べた結果、10月2日~6日に0.1HZ以下の磁界強度が平均値+3db上昇していたことを発見しました。研究グループはこの上昇がみられた期間のデータを用いて、ゴニオメーターにより電磁波の到来方位を調べた結果、真東から北側に55度の方角から到来していることがわかりました。この角度は、中津川観測所から震央地までの角度に近いことから、10月2~6日に現れた異常は新潟県中越地震に関連している可能性が高いことが示されました。

次に、研究グループは電離圏における異常の有無を検証するため、VLF/LF波伝搬データを使用しました、研究グループが所有しているVLF/LF ネットワークでは、4か所の送信局と7か所の受信局から構成される合計30本の信号伝搬路上のVLF/LF波信号データを観測しています。このうち、伝搬路が新潟県中越地震の震央地周辺を通る、福島県-高知県の信号データに焦点を当てて解析を行いました。ターミネーター法(信号が1日の中で最も弱くなる時刻による評価)を用いた結果、有意な変化が10月10日と20日に現れていたことがわかりました。また、重力波の周期(10分~数時間)における夜間のパワースペクトル密度の変動量を解析した結果、1週間前から有意に変動が増加していたことも明らかとなりました。

最後に、研究グループは大気中での電磁気異常を調べるため、電気通信大学(調布市)で受信した仙台からのVHF波(77.1MHz)信号データを用いて、信号強度と方位角を調べました。その結果、10月15日~18日にかけて、過去3年間の観測史上最も大きいノイズが観測されており、このノイズは仙台-調布の伝搬路から地震の震央地側に約20度ずれた位置から到来していることが明らかとなりました。

この研究により、新潟県中越地震では多様な電磁気的異常が現れていたことが確認され、始めにDC/ULF帯における地圏での異常が2~3週間前から現れ、次いで約1週間前に大気圏での影響が現れ、最後に電離圏の擾乱が1週間前以内に現れていたことが明らかとなりました。

この論文は2006年5月のPhysics and Chemistry of the Earth誌に掲載されています。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1474706506000611
Physics and Chemistry of the Earth, 31, 356-364, 2006.

電磁波
地震発生までの前兆現象